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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)3740号 判決 1987年12月22日

原告

堀川かほる

(他二名)

右原告三名訴訟代理人弁護士

上原洋允

(他五名)

被告

日本花材株式会社

右代表者代表取締役

鈴木正治

右訴訟代理人弁護士

田中康之

主文

一  被告は、原告堀川かほるに対し金一三四万四二五〇円、原告堀川嘉久に対し金六七万二一二五円、原告堀川よしみに対し金六七万二一二五円及び右各金員に対する昭和六〇年一一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告堀川かほるに対し金五六七万円、原告堀川嘉久に対し金二八三万五〇〇〇円、原告堀川よしみに対し金二八三万五〇〇〇円及び右各金員に対する昭和六〇年一一月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告堀川かほるは、亡堀川嘉彦の配偶者であり、同嘉久、同よしみは子にあたり、それぞれ相続人である。

2  亡堀川嘉彦は、昭和四五年四月、被告に雇用され、昭和五九年四月中ごろまで勤務していたが、がんのために同年四月一八日より入院し、昭和六〇年八月二三日死亡し、同日付けで、被告を退職した。

3(一)  被告は、昭和五一年一一月一〇日ころ、各従業員に対し、退職金規定の骨子について左記のとおりとする旨通知し、退職金はこの基準によって慣行として支払われている。

A勤続一年未満 無支給

B勤続一年以上二年未満 その時の本給の三分の一

C勤続二年以上三年未満 B+その時の本給の二分の一

D勤続三年以上四年未満 B+C+その時の本給の三分の二

E勤続四年以上五年未満 B+C+D+その時の本給の一倍

F勤続五年以上六年未満 B+C+D+E+その時の本給の一倍

以下、これに準ずる。ただし、不正行為等で懲戒免職にした者には支給しない。

(二)  亡堀川嘉彦は、勤続一五年で、退職時の給与は三六万五〇〇〇円であるが、一応三六万円として、右規定に当てはめると、「その時の本給」とは退職時の給与のことを意味するので、

B勤続一年以上二年未満 三六万×三分の一=一二万円

C勤続二年以上三年未満 一二万+三六万×二分の一=三〇万円

D勤続三年以上四年未満 一二万+三〇万+三六万×三分の二=六六万円

E勤続四年以上五年未満 一二万+三〇万+六六万+三六万=一四四万円

F勤続五年以上六年未満 一二万+三〇万+六六万+一四四万+三六万=二八八万円

以下、これに準ずるとして、三六万×九年=三二四万円、三二四万円+二八八万円=六一二万円が亡堀川嘉彦の退職金額となる。

4  世間一般では、功労金として退職金の五〇パーセント、弔慰金として給与の六カ月分が支払われていることから、亡堀川嘉彦に対し、功労金として三〇六万円、弔慰金として二一六万円(三六万×六カ月)が支払われるべきである。

5  原告らは、被告に対し、昭和六〇年一一月一四日到達の書面をもって、右退職金等の支払を催告した。

6  よって、原告らは、被告に対し、右退職金、功労金及び弔慰金の合計一一三四万円をそれぞれの相続分に応じて算出した額として、原告堀川かほるは金五六七万円、原告堀川嘉久は金二八三万五〇〇〇円、原告堀川よしみは金二八三万五〇〇〇円及び右各金員に対し催告の翌日である昭和六〇年一一月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実は認める。

3  同3の(一)(二)の事実のうち、亡堀川嘉彦の退職時の給与が、本給三〇万五〇〇〇円、所長手当二万円、家族手当四万円の合計三六万五〇〇〇円であることは認めるが、退職金を支給すべきであるとの点は争う。

被告において、昭和五一年一一月ころ、退職金規定を作成すべく検討したが、成案を得ないまま立ち消えになった。原告ら主張の計算方法は、そのころ被告が考えていたもので、これは結局規則化されなかった。そのころ以降、被告ではこの計算方法で算出した金額を退職金の基準とはしているが、これはあくまでも基準であり、被告がこれに拘束されるものではなく、被告においてその都度自由に退職金額を決定できるものである。なお、

(一) 亡堀川嘉彦は、昭和五〇年ころから昭和五一年六月ころにかけて被告大阪営業所長を勤めていたが、その当時相当多額の会社財産を私用に費消した。

(二) 同人は、昭和五一年八月に新潟市で開催された社団法人JFTD第二四回総会でのトレードフェアー売上金約一〇万円弱を着服した。

(三) 同人は、昭和五一年六月ころから昭和五九年ころまで被告東京営業所長を勤めていたが、その際、新しい取引先を開拓するのに十分な調査をしなかったため、多額の債権が回収不能となり、被告に約二〇〇〇万円以上の損害を被らせた。

(四) 以上のような事情を勘案して、被告において、同人の被告からの借入金が四七万八九五〇円あったのを免除する趣旨で、同額の退職金額を決定し、両者を相殺したもので、右退職金額の決定は相当なものである。

右事実に対する原告らの認否

右(一)及び(二)の事実は否認し、(三)の事実は知らない。

4  同4のうち、功労金及び弔慰金を支給すべきであるとの点は争う。

5  同5の事実は認める。

第三証拠(略)

理由

一  原告堀川かほる本人尋問の結果によれば、請求原因1の事実が認められこれに反する証拠はない。請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

二  退職金の請求について検討する。

1  (人証略)、原告堀川かほる、被告代表者各本人尋問の結果、成立に争いのない(人証略)、右被告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる(書証略)を総合すれば、

被告代表者は、昭和五一年一二月、従業員からの求めに応じ、亡堀川嘉彦を含む各従業員に対し、有給休暇、昇給回数、退職金、出張手当等について記載した書面(以下「本件書面」という)を配付し、退職金規定の骨子として、請求原因3(一)のとおりの内容を通知したこと、右骨子は他の就業規則とともに成文化される予定であったところ、右骨子については、取締役間に異論はなかったが、被告代表者と草刈取締役との間で、細部について意見が異なり、そのうちに右草刈が病気になり、現在に至るも成文化されていないこと、しかしながらその後退職した者のうち、大多数の一〇数名については、右基準によって退職金が支払われていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、被告は亡堀川嘉彦を含む各従業員に対し、退職金規定の骨子として右認定の内容を通知し、その後退職した多数の者について右骨子による基準(以下「本件基準」という)による退職金が支給されていたことが認められるから、右基準による退職金の支払については、被告と亡堀川嘉彦との雇用契約の内容となっていたと認めるのが相当である。

2  被告は、本件基準はあくまでも基準であって被告がこれに拘束されるものではないと主張するが、本件書面には、不正行為等で懲戒免職にした者については退職金を支給しない旨明記されており、それ以外の場合に退職金の減額又は不支給を予定しておらず、前述のようにこの基準が雇用契約の内容になっているのであるから、被告もこの基準に拘束されるというべきである。したがって、被告が本件基準に拘束されないことを前提に亡堀川嘉彦に不正行為があったので退職金を減額した旨の被告の主張はその余の点について検討するまでもなく失当である。なお、亡堀川嘉彦は死亡により被告を退職したものであり、懲戒解雇されたものではないので、本件基準による不支給者には該当しない。

3  被告代表者本人尋問の結果及び本件基準の内容からして、本件基準の「その時の本給」とは、退職時の本給ではなく、過去のそれぞれの時点における本給(諸手当を除いたもの)を意味し、右被告代表者、原告堀川かほる各本人尋問の結果及び前掲(書証略)によれば、亡堀川嘉彦の入社時から退職時までの本給は別紙(略)計算表の本給欄記載のとおりであり(昭和五九年七月分以降の給与は長期欠勤のため支給されていない)、右本給を本件基準に当てはめると、亡堀川嘉彦の退職金額は同計算表記載のとおり二六八万八五〇〇円となることが認められる。前掲(書証略)によれば、本件基準は従業員の死亡による退職について、何らの規定を設けていないことが認められるところ、このような場合において右退職金は相続財産又はそれに準ずるものと解されるから、亡堀川嘉彦の相続人である原告らは、被告に対し、それぞれの相続分に応じ退職金請求権を有することになる。

4  被告は、亡堀川嘉彦の退職金について、四七万八九五〇円と定め、同人に対する同額の貸金を右退職金と相殺した旨主張するが、前述のように、退職金の支払が被告と亡堀川嘉彦との雇用契約の内容となっており、その支給基準は明確であって、被告は退職金支払義務があるから、本件退職金は、労働基準法所定の賃金の一種に属するものというべきであり、同法二四条一項により、被告において、亡堀川嘉彦に対する貸金債権をもって、本件退職金債権と相殺することは、許されない。

三  原告らは、世間一般では、功労金として退職金の五〇パーセント、弔慰金として給与の六カ月分が支払われているので、被告も亡堀川嘉彦に対し同様の金員を支払うべきである旨主張するが、世間一般でそのような慣行があることを認めるに足りる証拠はなく、この点に関する原告らの主張は理由がない。

四  原告らが、昭和六〇年一一月一四日到達の書面をもって、被告に対し、本件退職金等の支払を催告したことは当事者間に争いがないところ、前述のように、本件退職金は賃金の一種に属するから、労働基準法二三条の適用があり、被告は、右昭和六〇年一一月一四日より七日置いた後の同月二二日から本件退職金支払債務につき遅滞の責めを負うべきことになる。

五  よって、原告らの本訴請求は、被告に対し、退職金債権として、原告堀川かほるにつき金一三四万四二五〇円、原告堀川嘉久につき金六七万二一二五円、原告堀川よしみにつき金六七万二一二五円及び右各金員に対する昭和六〇年一一月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋哲夫)

別紙(略)

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